最新記事一覧

臨時 vol 41 「すべての国民のための公的医療受給権」

医療ガバナンス学会 (2008年4月 9日 13:25) | コメント(0) | トラックバック(0)


                                 井上清成(弁護士) 今回の記事は医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員連盟の4月12日シンポジウムに向けて投稿された内容です。

1 危機打開策としての公的医療基本法  医療現場が危機に瀕している原因は、大きく2つあると思う。1つは過酷なまでの医療費抑制策であり、もう1つは過剰なほどの事故責任追及である。危機打開のためには、医療費を増加させる政策に転換し、かつ、医療者への責任追及を緩和しなければならない。  危機打開の方策を、新たな公的医療基本法の制定という形で提言する。 2 国民の公的医療受給権  健康保険法などで運営されている保険医療は、まさに全国民のための公的医療といってよい。誰でも、いつ、どこでも、安く、適切な水準の医療を受けられる国民皆保険制度は、昭和36年に実現し、既に40年余りも経過した。そもそも国民皆保険制度は、日本国憲法25条にその源がある。25条は生存権を定めたものであり、健康な生活を営む権利を、すべての国民に保障した。  この生存権の健康的側面が、国民皆保険制の40年余りの運用のうちに一体化し、「公的医療受給権」とさえ呼びうる基本的人権となっていったと捉えたい。 3 公的医療基本法の理念  すべての国民の公的医療受給権を基本理念とし、公的医療基本法を制定すべきである。そして、基本理念を明らかにするため、公的医療基本法の冒頭に次の条文を置くとよいと思う。  「すべて国民は、この法律の定めるところにより、その疾病または負傷に応じて、等しく公的医療の提供を受ける権利を有する。」  憲法的理念を国民の意志によって立法化し、もって、医療費増加策への転換の梃子とし、政策転換の正当性を確保するのである。 4 患者補償保険制度  国民の公的医療受給権は、単に公的医療を受けられるという側面ばかりではない。公的医療に際して、逆に、避けられたはずの傷害・死亡が発生してしまった場合も、その損失を補償する。つまり、医療事故による被害も救済しなければならない。表の側面だけでなく、いわば裏ないし負の側面もフォローしてこそ、公的医療受給権は国民にとって真の権利となる。  具体的には、患者補償保険制度という形で、国民皆保険制度と一体化して組み込むべきであろう。公的医療基本法の大きな柱とし、総論たる公的医療受給権に対し、いわば各論の1つと位置付けるのが適切である。  ただ、皆が享受しうる補償であるだけに、皆が互いにそれを負担し合わなければならないものでもあるから、相互扶助の精神が必要不可欠であろう。だから、慰謝料は除外するのが適切かも知れない。 5 責任追及から信頼関係へ  患者補償保険制度が機能するために、忘れてはならない条件が1つある。患者補償保険が医療事故責任追及の誘発要因となってはならないということである。患者補償保険は、医療者が善意で行った医療に対しては信頼関係を崩さずに、患者補償のみで終了としなければならない。それ以上の責任追及は行わないというルールがあってこそ、はじめて成立するものなのである。  具体的には、患者補償保険と一対のものとして、公的医療基本法のやはり1つの柱としなければならない。次のような条文を定め、民法の特例法的な位置付けを与えるべきであろう。  「民法709条(一般不法行為)の規定は、公的医療に伴う損害の場合には、これを適用しない。但し、医療者に悪意または重大な過失があった場合には、この限りではない。」 著者略歴   昭和56年  東京大学法学部卒業   昭和61年  弁護士登録(東京弁護士会所属)   平成元年   井上法律事務所開設   平成16年  医療法務弁護士グループ代表  病院顧問、病院代理人を務めるかたわら、  医療法務に関する講演会、個別病院の研修会、  論文執筆などの活動をしている。  現在、日本医事新報に「病院法務部奮闘日誌」を、  MMJに「医療の法律処方箋」を連載中。

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://medg.jp/arks-mt/mt-tb.cgi/548

コメントする

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらにメールをお願いします。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

月別アーカイブ

▲ページトップへ