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臨時 vol 87 「不正請求を見抜くのは誰?」

医療ガバナンス学会 (2009年4月17日 11:30) | コメント(0) | トラックバック(0)


          レセプト電子化にまつわる幻想(後編)

                武蔵浦和メディカルセンター
                    ただともひろ胃腸科肛門科
                    多田 智裕
  このコラムは世界を知り、日本を知るグローバルメディア日本ビジネスプレス
(JBpress)に掲載されたものを転載したものです他の多くの記事が詰まったサ
イトもぜひご覧ください

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 前回のコラムで、レセプト(診療報酬明細書)電子化の問題を考えてみました。

 厚生労働省は当初「完全電子化」を掲げましたが、「原則電子化」という流れ
に変わりつつあります。前回は、その背景には開業医の高年齢化という厳しい現
実があるということを説明しました。

 それでも、「完全電子化が延期される裏には、医師会にとって何か隠された利
権があるからなのでは?」と思われる方もいると思います。本当にそんな理由で
延期されるのでしょうか。

 今回も続けてレセプト電子化の意味と課題を考えていきたいと思います。


●レセプト電子化はデータを単純に電子化するだけのもの

 そもそもレセプトを電子化するとどのようなメリットがあるのでしょうか。

 レセプト電子化と言うととても画期的で、大きな変化のように聞こえますが、
これまで紙に印刷して健保組合などに提出していたデータを単純に電子化するだ
けなのです。それ以上でもそれ以下でもありません。

 地上波デジタル放送のように、映像と文字放送が融合されて、これまでとは違
うテレビの楽しみ方ができるというものではないのです。

 そして、レセプト(請求書)を提出しないで隠していたところで、単に仕事を
した分の保険収入がなくなるだけです。株券のように自動的に配当がもら える
わけではありません。なので、タンス株券よろしく「タンスレセプト」があぶり
だされてくることもないのです。そもそも隠されたレセプトなど、どこにも 存
在しないでしょう。

 つまり、レセプト電子化は、データが整理比較しやすくなるという効果しか見
込めないのです。


●電子化で過大請求や不正請求を本当に見抜けるのか

 だとすれば、今まで紙で提出されていた際に見抜けなかった過大請求や不正請
求が、電子化しただけで即座に見抜けるようになるものでしょうか?

 企業会計に置き換えて考えてみましょう。決算書が電子公告化されたところで、
決算書の不正がなくなると考える人はいないでしょう。

 電子化されれば、より多くの人たちが見ることができるようになりますし、過
去との比較も簡単にできるようになります。でも、それだけのことです。最終的
には「決算書を読みこなす力」が問われるのです。

 レセプト電子化も同じことです。それがうまく機能するかどうかは、ひとえに
健保組合などの保険者の審査力、つまりレセプトの裏を読み通すような高度な知
識と経験があるかどうかにかかっているのです。

 レセプトに載っている情報は、「病名」「処置内容」「点数(金額)」などの
ごく限られたものしかありません。そして、審査を担当する医療事務は、 専門
学校を卒業した人たちでさえも、1000ページ以上に及ぶ医療点数表のさわりを学
んだ程度です。「病名」「処置内容」の知識はほぼ皆無と言ってよいで しょう。
よって審査は、どうしても担当者が理解できる「点数(金額)」重視にならざる
を得ません。


●レセプト上の金額だけで不正請求を疑われた?

 前回のコラムで、以前、社会保険事務局から私あてに、不正請求予防を目的と
する「個別指導」に出頭するよう通知が来たという話を書きました。

 もちろん不正請求なんてした覚えはありません。どうやら私のクリニックの
「平均点数が高い(一人当たりの治療費が高い)」ということで呼び出されたよ
うでした。

 私のクリニックでは日帰り内視鏡手術などをやっているので、通常のクリニッ
クより1日に診察する人数は少ないのです。結果的に一人当たりの治療費は高く
なります。

 ただし、医療費全体の枠組みで見れば、入院代金を発生させないわけですから、
医療費削減にかなり貢献しているはずなのです。しかし、審査する人たちは病名
や処置内容などは理解しないで、レセプト上の金額しか見ていなかったようなの
です。

 「入院治療費」と「外来治療費」は別枠で算定されます。大枠で医療費を減ら
すはずの日帰り手術は、外来治療費の単価を上昇させます。そのため、膨大な量
のレセプトの中で自動的に「不正請求の可能性が高い」とピックアップされてし
まい、指導の対象となるのです。

 私が出頭した個別指導の場では、そういう状況を理解した先生が間に立ってく
ださって、「入院が必要なものまで(売り上げを伸ばそうとして)無理に日帰り
でやらないように」という指導を受けただけで終了しました。逮捕はされたけれ
ど、不起訴処分といったところでしょうか。

 それでも、診療日を1日つぶすわけですし、指導前のプレッシャーを考えると
気分の良いものではありません。


●レセプト電子化における最大の課題は審査する側の力量

 医療界特有の価値観を持たない人たちが、客観的な立場でマネジメントを行な
うのは、確かに意味があることなのかもしれません。しかし、レセプトに 記載
されている限られた事項だけで「個人の特性に応じた治療」かどうかを判断する
のは、たとえ専門医であってもものすごく困難なのです。

 現場で創意工夫をこらして、何か新しいことをやるたびに、コンピューター上
では「前例と違う」という理由で「不正請求の可能性が高い」とピック アップ
されてしまいます。そして、医学知識のない方たちが中心となって査定する場合、
大部分がそのまま指導対象になってしまうことでしょう。

 現場の医師からすると、新しくて高度な医療をやればやるほど、不正扱いされ
てしまうわけで、モチベーションが下がることでしょう。その結果、個々の患者
に対応した医療が減っていき、ひいては医療の水準が低下してしまうのではない
かと思うのです。

 前回と今回の内容を整理すると、レセプト完全電子化をめぐる騒動には、大き
く2つの問題があると思います。

 まず、「これから進んでゆく開業医の高年齢化をどうするのか」という問題。
そして「医療費コントロールのために適切な審査を行いつつも、医療水準を保つ」
のは、現実問題としてものすごく困難だという問題です。

 前回のコラムで引用した新聞記事では、開業医の高年齢化問題はもとより、レ
セプトの審査体制については全く議論されていませんでした。それらに対 する
議論なしに、「レセプト電子化で請求事務が効率化され、不正請求が即座に見抜
けるようになる」と考えるのは、幻想にすぎないのではないかと思うのでし た。


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